「ホモ・ジャスティフィカス」という人間観


人間観を表すのに、よく「ホモ・(ラテン語)」が使われる。
「ホモ・サピエンス」は、「知恵ある人」という人間観を表し、
「ホモ・ルーデンス」は、「遊ぶ人」を意味している。

さて「ホモ・ジャスティフィカス」は、ラテン語の「justi-ficus(正しく振る舞う)」から
「正義を求める人」という人間観を表している。 もともと「justi-ficus」は、「justus(正義)」と「facio(装い)」が結びついたラテン語で、
「正義の衣を着る」という意味がある。

「何が正しいか?」は、時代により、地域により、捉え方が異なる。
極言すれば、何が正しいかは「その時、その場の状況」によって判断するしかない。
「衆善奉行、諸悪莫作」(善いことは皆行う、悪いことは一つもしない)は仏教の極意というけれど、
現実的に何が正しく、何が悪いかは、何万巻の仏典があっても説明できない。

しかし人類の歴史をみれば、正義を求めて生きた人の足跡が世界中に伝えられている。
善いことを行う、正義を求めるという立場は、人類にとって最も大切で普遍的な価値といえる。

言い換えれば「ホモジャスティフィカス」とは、「正義を求める」という現実的な人間の倫理性に基づく人間観である。

しかし国家や為政者、また宗教団体などが正義を掲げる時、
往々にして正義は偽善と化し、人々に大きな災いをもたらしてしまう。
アメリカの世界各地における空爆など、その最たる例だ。
また世界各地の宗教的な対立など、人類の存在を考える上で、本末転倒もいいところだろう。

「正義を求める」主体は、人間一人ひとりの心の中にある。
それは国家や集団にあるのではない。
いまや国家や宗教は、人類史上の必要悪でしかなくなろうとしている。

自己以外に正義を求める場合、
その基本方針は「諸悪莫作」つまり「悪いことは一つもしない」の方がいい。
具体策としては、悪いことや問題点を見つけ、ひとつひとつ解決していくことだ。

21世紀における人類最大の課題は、戦争の完全否定、軍廃だろう。
その意味で日本という国家は、世界で最も素晴らしい憲法、価値の高い国家運営の基準を持っている。
それは、言うまでもなく「戦争の否定」「武装の放棄」という立場である。
しかし現実的には、日本政府はアメリカの腰巾着であり、日本は世界有数の軍備を持った恥ずべき国家に堕落してしまっている。
自衛隊は、詭弁を弄さぬ限り、違憲以外の何ものでもない。
平和の装いの影で、軍事産業が暗躍している。
最近明らかになったNECの贈賄事件など、氷山の一角でしかない。

軍縮という発想は、現実的なようで、実際は自己防衛という言い訳を許してしまう。
軍備は温存され、何かにつけて再び拡大され、効率的な成果は上げられない。
そもそも軍隊の本質は、権力者の国民に対する保険詐欺的機構であり、国民のための軍隊など歴史上あったことがない。
権力者にとって「国民が悪人と思い込み、敵対視する」人物や国こそ、彼の最大の味方である。
本当は不必要で害悪の根源である軍隊を情報操作に騙された国民が認め、
愚劣極まりない戦争を肯定し、さらに正義感に燃えて入隊するという哀れな過ちまで犯してくれるからだ。
そのため権力の座に就いた者は、教育機関やマスコミ等を利用し、国民の敵づくりに励む。

騙されてはならない。
戦争は、そのものが悪である。正しい戦争などありえない。
軍隊・軍備そして国家そのものが、いまや無用の長物になろうとしている時代である。
国民の敵は、国外の権力者や軍隊ではなく、自国の軍隊なのだ。

軍廃、戦争の完全否定こそが、人類の正しい選択肢であり、我々人間一人ひとりの正しい立場といえる。
具体策としては国連による軍廃思想に基づいた国際PL法の制定と、武器使用における損害賠償の徹底的な実施である。
その国際PL法においては、あらゆる戦争・紛争を悪と定義し、
武器使用における損害は、武器を使った者だけでなく、害悪の根源である武器を作り、売った企業と売ることを認めた国が賠償責任を負わねばならない。
武器は悪意に満ちた商品であり、偽札同様、作ること事体が罪である。特に重火器やミサイル等の製造・販売の罪は、使用された場合の結果をみれば明らかなごとく、単に金銭における賠償では償いきれない。その製造や販売に関わった責任者の罪の重さは、死罪でも軽いと糾弾し、その刑罰を定めるべきだろう。
このような国際法規は、その正しさ故に、大国主義のまかり通っている現在の世界で簡単には成立しないだろう。
アメリカを初めとする軍事産業国家が、間違いなく拒否権を使う。

人間は、「ホモ・ジャスティフィカス」である。
正義を求めて行動する生物である。
アメリカのような邪悪で巨大な軍事産業国家に一人でも立ち向かい、
強大な勢力を持つ死の商人を告発、正義のもとに処分する現実的な方法を見つけなければならない。



Update: May 18, 1999


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