皇帝ワラビとの出会いを語る前に、まず最初にこのオトコを紹介せねばならない。オフ会で会う仲間を除いてもっとも新しい地元での仲間の一人である。遡ること約10年前、野火の如く地元で上がった1対1の選挙戦、その彼は突然私の前に現れた。名はイニシシャルでしか表せない。O氏である。姿かたちはまるで無頓着で、そのまま地べたにいつ横たわっても座り込んだりしても不自然な感じがしない・・・と書いたら、これを見る機会を得た彼は烈火のごとく私を叱るかもしれない。例えれば戦国の軍師黒田如水であろうか。
そう云う彼と短期ではあるが修羅場を共に過ごし、彼の卓越した見識にリスペクトするのに時間は要らなかった。私は中年の頃より極端に人付き合いを避けてきていながら、選挙という人付き合いを必至とする行動とに相反することを覚えながらも、自己確立の手段とわきまえ望んでいった。そんな中で見事自己確立をしているのがO氏である。時には互いに口角泡を飛ばすこともあり、選挙戦が終わったあとむしろ急速に近くなったのである。
当時私は天然ナメコ採りに関しては地元仲間の中ではダントツであったが、O氏はその天然モノに大層な興味を持った。さっそく彼の仲間を連れて奥山へと案内した。山での天然モノはナニに関わらず、必ず対象産物が採れるという確約が存在しないことを捜索者は知っている。偶然にも最初のロケーションでわずかであるが天然ナメコは採れたのである。爾来私は彼に「貸し」を造ったのである。そしてこの2年ほど前の7月の下旬頃、彼がいつもようにお茶を飲みに立ち寄った。日本一のワラビを吹聴しにきたのである。日本一という具体評価法とはなんぞや?!そのワラビ1本が末端では2千円くらいになるという粋な料理屋の話を持ち出していた。私の中でのワラビはフンヅケ山菜の一つであった。もちろんゼンマイがダントツでコシアブラやウドやフキなどの個性ある山菜が続いていた・・・が、帰り際に置いていった7月下旬のワラビとやらを食べて一気に鼻から火、目から鱗が落ちたのである。その太くて長くて柔らかな青いワラビは今までのワラビとはまったく異質。体積が大きいだけに口に含んだときの風味と輪郭のはっきりした中での柔らかさとのアンバランス。決して旨味ではなく、むしろとても鄙びたストレートな味わいなのである。それに喉越し、山菜に喉越しなど評価項目に入っては居ないのだが、新たに付け加える必要に迫られるのである。
話は早い。さっそく先の賃借関係を清算すべく彼にその日本一のワラビ採取に案内を希望した。そこは山止めしたダム湖と流れ出す沢のバックウオーター近辺なのである。この場所はダムが出来る以前から何度も訪ねてきてはいたが、さすが7月下旬頃は山から海川にシフトしていたからまったく気付かずにいた場所である。彼の地は半年以上も雪で道路が封鎖されており、夏を中心とした各月しか入れない山間(やまあい)である。数日前に消えたと思われるような沢の草原にそのワラビは群生しているのである。身の丈1mくらいもザラで、採取するときにその茎を折る物音は静寂なダム湖に鳴り響くのである(汗)。採りながら日本一の形容がどうもそぐわない。お国自慢並である。採取しながら考えた。そうだ皇室御用達できるくらいのワラビであるからして『皇帝ワラビ』・・・と命名したのである。 |